10年3月14日に観た「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」の感想。
 ネタバレ注意。
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・筋
 女子大生・神崎直の元に届いた手紙とテープ。それは巨額のマネーを奪い合うことが出来るライアーゲームへの招待状であった。
 自分の意志とは無関係にそのゲームに参加することとなった彼女だが、根が正直であり、人の善意を信頼する性分のため、たちまち窮地に立たされる。そこで頼ったのが天才詐欺師と呼ばれた秋山深一だった。
 二人は勝ち上がり、このゲームの真の目的を明かし、大会を潰そうと決意する。紆曲の過程を経てついに決勝戦へと到達したその舞台には、エデンの園を模した会場とゲームが用意されていた。
 全ての人間が利益を得るためには信頼と思いやりが要求されるこのゲームだが、のっけから参加者の利己的な行動に振り回される神崎直。
 決勝まで到達した猛者達の駆け引きは果たして……?
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・切り口
 人間というのは、経験で作り上げられる生き物である。
 経験せずとも推測したり想像したりすることである程度のことは理解したり共感したりすることは出来る。しかし、身に迫る物を得るにはやはりその物を体験しなければ、実感とはなりにくい。
 経験することで初めてわかることがあるわけだ。

 食べ物の本当の美味しさは、お腹が減っているときにこそ味わえるもの。
 防寒具の有り難みは、凍える季節にこそわかる。
 人の優しさも、自分が傷ついているときにこそ身に染みて感じられるのだ。

 この作品に登場する人物達は、皆最初は醜い利己的な思惑によって動いている。欲を実現するために権謀術数を巡らし行動する。神崎直が、損をする者を生まずに、皆平等に利益を得られる案を説いて回るが、なかなか受け入れられない。
 それは他人を信頼できないと言うこともあるが、一つには自分達の欲を実現しようとする意志があるからでもある。
 彼らはここまで勝ち上がってきた強者達だ。多少の失敗もあったかも知れないが、最終的に勝ち上がればそれらは全てひっくるめて自分の功績となる。自尊心と自信を膨張させる。
 そういった時に、人への優しさなどは意味を成さない。自分の能力で勝ち取った成功、それが世界の全てとなるからだ。目の前にチャンスがある。欲も、実現させる自信もある。むざむざそれを捨てるのか? いや、叶える、自分の手で。

 しかしだ。人間というのはやはり失敗する。多くの人間は負けを味わう。その時こそが問題なのだ。
 勝っているときはいい。勝てば全てが正当化されるのだから。多少の非難があっても、実際的な成功と、自己評価の上昇で振り払える。それが本当の意味の幸せかはわからない。人間として価値があることなのかはわからない。ただ自分の欲求を満たすことは出来る。
 しかし負けたときには逆に、大切な物を失うことになるのだ。
 それは賭け事の程度にもよるが、自信、プライド、財産、社会的信用、正当性、地位、名誉、友人、あるいは家族、つまり人間関係、そういった諸々の物が自分から逃げていく。
 喪失感と共に、暴露された自分の醜さに打ちひしがれ、自棄に陥る。
 その時に、手を差し伸べられたら。

 神崎直に関わった人は、なぜか心を入れ替える。不思議なほどに。
 彼女は馬鹿正直で、すぐ人に騙される。しかしそれでも人を信頼することを止めない。そういった彼女の一貫したスタンスが安心させると言うこともあるのかもしれない。しかしそれとは別に、敗れて落ちぶれた惨めな境遇の時にも、笑顔で手を差し出してくれるからこそ、ささくれた気持ちが潤い、気持ちを改めるのだろう。
 敗れたときは、回りの全てが敵に見えるものだ。諦めたり、打ちのめされたり、自己評価の下がった自分を守ろうともする。
 そんな時こそ、本当に大切な物がなんであるのか、一番理解出来るのかも知れない。それを教えてくれる人が傍にいれば、その体験はその後の人生を変える何よりも大切なものとなるのかも知れない。
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・趣向
 原作はマンガで、その後テレビドラマ化された本作(確かそうだよね?)。
 自分はマンガは未読。テレビドラマはファーストシーズン、セカンドシーズンの両方を見た。

 基本的にはテレビシリーズのスタイルをそのまま踏襲している作り。作品自体が嘘、裏切り、駆け引きの応酬を見せ物としているため、その世界観を各分野で演出している。
 映像は映画的というよりテレビのようなすっきりした感じの印象。話自体の展開が早いため、それに合わせるようにカット割りが多く、素早いテンポで切り替わる。バラエティ番組でよくあるように、同じセリフを繰り返し再生するなど、とにかく見せ方を工夫していて、そこは従来のドラマとはっきり違う。
 美術は、どこか現実離れしたような妖しさと華やかさを合わせたように飾られている。照明も様々な色を使って場面に応じて照らしているが、基本的な色調は妖しさを醸すためか暗め。使われている音楽は中田ヤスタカによる電子サウンドで、ポップ且つ刺激的に扇情している。
 全体的にスタイリッシュであり、ポップであり、妖しい。

 ストーリーは先に書いたようにとにかく展開が早い。そのため、ゲームのルール説明も矢継ぎ早。自分のように頭の回転の遅い人間には、はっきりと理解出来なかったり、理解出来たとしても応用まで考えている暇がない。
 なので、誰かが策略を披露したり、それが覆されたりしても、確かめられない。とにかく起こった出来事に対して、そうなんだ、そうなんだと追っていくだけになってしまう。
 そこは好みが分かれるかも知れないが、この作品の良いところはそういったテンポの速さと、状況が刻々と変化する所にあるので、割り切ってしまって良いのかもしれない。 

 テレビドラマを見ていない人間がこれを見て楽しめるかどうか、理解出来るかどうかについては何とも言えないが、一応キャラクターもわかりやすいし、入り組んだ人間関係というわけでもないので、問題はないのでは。

 役者の皆さんは数が多いので、出番の少ない方は本当に少ない、モブキャラのような感じになってしまっていた。
 また、皆さん無難にこなしていたように感じるが、どうにも迫力不足に感じてしまう面もある。本当に全国から勝ち上がってきた人達なのか? と思えてしまった。それはもちろん脚本での人物の描き方もあるのだろうが、キャスティングにも一因があると思う。二時間ちょっとでまとめなければいけないわけで、全部が全部やり手というわけにはもちろんいかないだろう。翻弄されたり、秋山が比較優位に立つような相手でなければいけない部分もある。コミカルさを描く意図もある。
 しかし、決勝戦にもかかわらず、主体性が無く、知性があまり感じられない人が多いのは、本作の内容からするといかがなものかと思えるのだが。

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・個人手な感想
 面白かったかと聞かれれば、まあまあそれなりに楽しめたと答えられるが、それ以上でもそれ以下でもない感じ。
 元々大きなストーリーがあるというよりは、各ゲームでの駆け引きを楽しむための作品なんで、それで良いのかもしれない。神崎直の成長物語として見られれば。
 最後にしてはあまりライバル達が強くないなと思えたり、展開の都合が良いなと思えたりもするが。
 いずれにしても、日本のドラマの中ではこれほどエンタテインメント色が強くてスタイリッシュな作品も珍しいのでは。それだけでも価値があるのかも知れない。

 濱田マリと鈴木浩介さんの掛け合いが面白かった。間が絶妙だったなあ。
 関めぐみさんは以前はただ単に綺麗な人だなあと思っていたのだが、最近時々見るにつけ、その特徴的な顔付きが目に付くようになってきた。確かに正統派のヒロインと言うよりは、ダーティな役も似合いそうな顔ではある。
 でも、「ハチミツとクローバー」の時は素直に可愛かったなあ。
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・うろ覚え気になったセリフ
「いいんじゃないですか。人を助ける、優しい嘘なら」

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