10年3月14日に見た「ハート・ロッカー」の感想。
 ネタバレ注意。
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・筋
 イラク。アメリカが多数の兵士を送り込み治安維持に努める地で、ある日、一人の兵士が爆弾によって殉職した。
 後日、ブラボー中隊爆発物処理班に、新たなリーダーが配属されることになる。ジェームズ二等軍曹率いる3人の爆発物処理班は次々と仕事をこなしていくが、ジェームズの死を恐れていないかのような行動に、サンボーン軍曹とエルドリッジ技術兵は不安を募らせていく……。
 緊張の続く日々の中、ジェームズは現地の少年と親しくなるが……。
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・切り口 
 この映画はイラクに派兵されたアメリカ兵の視点で描かれている。そして、彼らのことを綴った映画である。
 それはつまり、イラクの人間を描いてはいないと言うことである。この映画において彼の地の人間達は全くもって異質な存在として登場している。
 言葉が通じない、文化も違う、表情も読めない。ディスコミュニケーションの状態で、お互いに相手を警戒し、緊張し、溝の反対側に置いているのである。
 そうなってしまう最大の要因という物が、イラク国内で起こっている紛争である。
 アメリカ兵はイラクの治安維持のためにそこにいるわけだが、すでに知られているように、関係のない民間人を誤射、誤爆したり、戦闘に巻き込んでしまったりしている。また、アブグレイブ刑務所での一件のように、横暴な振る舞いをイラクの人間に対して行っている面もある。
 イラクにいる人間達はそういったことからアメリカ兵に対して恐怖を抱くと同時に、憎しみも芽生えさせている。一向に改善されない治安や、生活、そして殺される家族達を見てそうなるのだ。

 一方のアメリカ兵達も、いつ死ぬともわからない戦地に身を置くことで大きなストレスを溜め込んでいる。
 異質な人種、文化の中でコミュニケーションが取れず、テロリストやゲリラ達と生死を賭けた戦いを行わなければならない。特に、自爆テロや爆弾テロと言った物は、どこに、誰に仕掛けられていて、いつ爆破されるかわからないという性質の物であり、常に緊張を余儀なくされる。
 この恐怖は、彼の地の人間を全て敵に見えさせるのに充分である。

 お互いがお互いを恐怖し、憎しみ合うことで溝が深まっていく。本来ならばうまく付き合うことが出来たかも知れない関係は、不安定な情勢の中で大きな隔たりを生み出して、全く理解の出来ない存在となってしまう。
 相手と付き合うことで疑いや、対立や、悲しみを生み出してしまうのならば、もはや関係を断って、没個性の異質な存在として遠巻きに見ていた方が楽なのである。

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・趣向
 映画は基本的に、戦闘や爆弾処理のシーンが多い。登場人物が語り合うような静かな場面というのは割合少ない。
 主人公達は爆弾処理班と言うことで、爆弾と絡むことが多いのだが、その緊張感たるや、見ていてかなり身構えてしまった。きちんと爆破のシーンもあるので、その時の衝撃の凄まじさを見ると尚更だ。
 そういった、現場での戦闘や解体処理の場面を多くすることには幾つかメリットがあるのだろう。
 一つには単純に、映画として客を引きつけるための効果だろう。アクション、スリル、サスペンス、そういったもので飽きさせないようにしているのだ。
 一方で、強烈な緊張感を強いる場面が続くため、見ていてへとへとに、少なくとも自分はなった。これはアメリカ兵達の過酷さを演出するのに十分な効果があると思う。
 こういう、誰が敵でもおかしくないような状況、いつ死ぬかわからない状況に身を置いたときのストレスを、身をもって感じられる作りにはなっている。

 恋愛だとかユーモアだとか、そういった要素はほとんど無い。かなりシリアスでヘヴィーな映画だ。
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・個人的な感想
 正直、これがアカデミー賞作品賞か? と、観た当時は思った。
 他の候補作や、候補外の映画など、ほとんど見ていないので、比較は出来ない。ただ単純にそう感じたのだ。
 確かにサスペンスとして凄まじい映画だとは思うが、それほどの物だろうか? と。
 しかし、映画が賞を受賞したり、観客動員が伸びるなど支持を受けるには、何かしらの理由があるのだと思う。
 この映画の場合は、その当時のアメリカにおいて、イラク派兵に対する問題意識が、やはり少なからずあったのだろうと思う。そして、アメリカ国民の意識か無意識の中にあったそれに触れたのだ。
 アカデミー賞受賞作とは言え、長い歴史の中で淘汰されずに生き残っていけるかはわからないが、少なくともこの映画には、アメリカの映画賞であるアカデミー賞で受賞する、大きな理由があったのだ。
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・うろ覚え気になったセリフ
「俺が死んでも両親は泣いてくれる。でも、それ以外で俺のために泣いてくれる奴が一体何人いる?」

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