10年2月18日に観た「つむじ風食堂の夜」の感想を書きます。
 ネタバレがあるかも知れませんので注意。
-----------------------------------------------------------------
・筋
 雪の積もった夜、主人公の「私」がとある食堂に入ると、そこは個性的な常連客達の暖かな空気で満ちていた。二重空間移動装置を売りつけようとする桜田さん、舞台女優の奈々津さん、果物屋や本屋……。
 彼らと接する内に、自分自身を見つめるようになる私は、マジシャンだった父や、父と通ったカフェのタブラさんを思い出す……。
 そんな折、私が昔お話を書いていたということを知った奈々津さんに、一人芝居を書いて欲しいと頼まれたのだが……。
-----------------------------------------------------------------
・切り口
 主人公は人工降雨(?)の研究をしているが、それが一体どういう成果を出しているのか、その研究で何を成そうとしているのかははっきりしない。ただ、”人工的に”事を為そうとしていることは覗える。
 桜田さんの二重空間移動装置というはただの万歩計であって、何気なく日常で歩いた距離の分だけ、遠くに思いを馳せる慰めの物だ。奈々津さんは女優なのだが、女優というのは架空の物語に生きる架空の人物である。仮にノンフィクションを演じたとしても、演じているにすぎない。父はマジシャンだったが、マジックは種も仕掛けもあり、嘘っぱちである。
 このように、この話には虚実が入り交じっている。
 実体が幻像を作り上げる。いや、作るのは人の心である。実体はそこにしかない。そして現象が起こるだけなのだ。
 物事はただありのままにある。それをどう捉えるのか、それによってただの無意味なことも意味を持ち、影響を与えるまでに膨らむ。
 想像、イマジネーションは時に人に恐怖や焦りや不安を呼び起こし増幅させるが、一方で無味乾燥な日常を豊かにするのも、それなのである。
 最後のシーン、父の形見の手袋が風に吹かれて消え去った。
 それをただ風で舞っていっただけと考えるか、父の最後のマジックだと見るのか。
「私」が満面に溢れさせた笑みは、全てを物語っている。 
-----------------------------------------------------------------
・趣向
 原作小説があるらしいが、自分はそれを読んでいないので、どの程度原作通りに作られているのかはわからない。
 内容は割と抽象的だと思う。テーマをストレートには伝えていないように思える。言葉の裏に隠して散りばめ、それとなく感じとらせるような作りだ。まあ、哲学的問答もあるのでそうとも言えないかもしれないが。
 また、決して派手な映画ではない。話に起伏のある映画ではなく、日常の中のちょっとした出来事に主人公が悩んだり右往左往したりする様を、淡々と見ていたり、ゆったりじっくりと描いて見せたりする感じ。テンポはスロー。だったような気がする。
 そういう意味では率直さに欠けるため、何が言いたいんだろうというモヤモヤが続き、間延びしている感さえある。なので、刺激的な楽しさは薄いのかも知れない。
 一方で、美術や照明、あるいはロケ地が、ファンタジックな雰囲気の世界観を作り上げていて、それは見ていて愉しい。
 宮沢賢治っぽいというか。あまり宮沢賢治を読まないのだけど、一言で言うとそんな感じ。
 内容が今一よくわからなくても、雰囲気は味わえるような映画だろう。この映画の雰囲気に浸れる人は楽しめるのかも知れない。

 俳優に関しては大旨違和感なく見られたが、ヒロインの奈々津役の月船さららさんには引っかかった。演技が大仰なのだ。舞台俳優的な。と思っていたら、宝塚歌劇団にて役者をやっていたようだ。通りで。
 舞台女優役なので、ある意味では適役なのかもしれない。が、どうにも自分は、合わなかった。
-----------------------------------------------------------------
・個人的感想
 正直、自分の足りない脳味噌では1回見ただけでは、この映画の趣旨がさっぱりわかりませんでした。だから感想を書くのが非常に億劫だった。
 もういまいち覚えてないのではっきりしたことは言えませんが、テーマがはっきりしていない、どういう話の流れなのか、主人公が何に悩み、どうしたいのかがはっきりしないから、のめり込めないのです。
 そういう話の軸がはっきりしていれば、個々のエピソードにおいて何かを抽出しやすいのだけど、軸がわからないから、個々のエピソードで何を言いたいのか、何をしたいのかもよくわからない。そうやって漫然と進み、こちらが手探りで見つけ出そうとしている間に終わってしまったという感じだった。
 ゆったりしたテンポの作品であり、シーンの演出も淡々としていたりアンニュイだったり。意味があるのか無いのかわからない描写を見せられ続けるのは、個人的には若干苦痛でもあった。
 ただ先に書いたように、雰囲気は非常にある映画なので、全く気に入らないというわけでもなかった。
 でも、個人的にはいまいち。もう一回見れば何か変わるかも?
-----------------------------------------------------------------
・気になったセリフ
「種も仕掛けもありません」

コメント