未来の食卓

2009年12月13日 映画
 2本立て続けに観た映画の2本目。
「未来の食卓」(ネタバレ注意)。

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・内容

 この映画はドキュメンタリーです。
 舞台はフランスのバルジャック村。村の小学校の給食を全てオーガニックにするという試みを追っています。
 映画では農薬や食品添加物の危険性を説明するパートと、オーガニック化する小学校、その周囲の状況を交えて作られています。

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・切り口

「現在、有史以来初めて、子供達が親世代よりも肉体的に劣っている可能性があります」
 映画の中で出てきた発言はこのようなことを言っていました。
 この映画は、人間の健康に化学物質が重大な影響を与えているという主張を前面に出しています。
 それは食品添加物や農薬、それによる環境汚染が人体に取りこまれることによって起こる問題であり、また現在の世界的な食料の消費事情を鑑みたとき、それが地球温暖化などの環境破壊に一因になっているということです。

 会議やシンポジウムの様子が劇中度々挿入され、その中で癌研究の専門家が「癌の原因は化学物質だ」と言っています。
 有識者達が化学物質や人工物に依存した現在や、ここに至るまでの過ちを糾弾し、オーガニックに転換すべきだという主張を行っています。
 これ以外にも、様々な団体の出している数字や論文を引用して、化学物質が人間にどれほど有害か、権威的、科学的な力を借りて説得力を与えようとしています。

 一方、実際に農家で働いている人達を取り上げ、彼らが農薬散布などで受けた被害などを語っていて、その部分は実体験に基づく共感や共鳴などによる説得力を持っています。

 感覚的な説得力としては、やはり農薬散布の光景でしょう。防護スーツに身を固めた男性が乗り物に乗って、広い農場に大量の農薬を散布し、それが雨のように降り注ぎ、霧となって漂う様は、おどろおどろしい音楽と共に生理的な嫌悪感をもたらします。
 また、オーガニック農法を続けている農地と農薬を使っている農地が隣同士にあり、シャベルで両方を掘り出してみると、片方は無生物で土に生命力がなく、もう片方は健康的に植物が育っている様がわかります。
 この点は近年話題の農家・木村秋則さんのリンゴ栽培に似た話がありますね。

 ただし、科学的・権威的な説得力と言っても、実際どの程度正確なのかはわかりませんし、情報自体決して多いとは言えません。
 この点はまずそもそも、化学物質を使い始めたのが人間の歴史の中で見てもごく最近のことであり、まだまだ研究が進んでいないと言うこともあるでしょう。
 また、まだ世界的な潮流を見ても、こうした天然志向は小さなムーブメントの域を出ていないと言うことでもあると思います。
 おそらく化学物質は人間やその他の生物や地球にとって悪影響をもたらすものだ、と言うことはなんとなくわかっているのだと思います。しかしまだまだ断片的な情報しかなく、体系的ではないのかも知れません。
 そしてまた、そうしたオーガニックへの切り替えはお金がかかります。
 消費者も、生産者も、様々な企業も、化学物質の旨味を知ってしまっているわけです。そこからの転換は大きな抵抗が予想されますし、なかなかまだ難しいのかも知れません。

 それでも、着実に変えていくために、こうした映画や活動が必要なのでしょう。
 監督はそういった化学物質への嫌悪による説得力だけではなく、もう一方の説得を用意していました。
 それはつまり、オーガニック主体の生活は美しく楽しいのだ、と言うことを、映像でしっかりと見せていることです。
 オーガニック食材を使った給食を美味しそうに食べる子供達。有機農法の畑で楽しそうに農作物に触れ、また豊かな自然を背景に語らう姿が映されています。
 それは親世代にも伝播し、意識が変わりつつあることを映しています。
「今までは買うのと食べるのの繰り返し。今は効率よく買っていて、消費システムの外にいる。罪悪感は減ったし、今の世の中は少し食べ過ぎ」
 とある人は語っていました。

 決して派手な映画ではないです。
 日本のテレビなどで放送されているドキュメンタリーなどと比較すると、作りはシンプルで、好奇心や興味を過剰に刺激するようなエンターテインメント性はないのです。
 製作者の意図に従って編集されてはいるのだと思うけれど、基本的には淡々と風景や語る様子を撮っています。
 しかしこれはつまり、化学物質とオーガニックを扱った内容であるとおり、装飾過多にせず、出来るだけ自然に見せようとした結果なのかも知れません。
 その方が美しいのだと。

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・個人的な感想

 まず、万人向けの映画とは言えません。
 これは上記したように、飽きさせないような工夫に欠けているからです。この映画やテーマに興味のある人ならば最後までしっかり見続けることが出来るかも知れませんが、それ以外の、興味をあまり持たない人達に対する訴求力はあまりありません。退屈さを感じてしまう人も多いかも知れません。
 科学的事実、研究結果なども不足しているような気がします。

 ただやはりこういう映画は必要なのだと思います。
 自分としてもアトピーとの闘いの中で色々と健康に興味が出てきて、今はかなり良くなっているのですが、今後も気をつけていくのだと思います。そういった中で興味深い部分もありました。

 全体的に凄く面白かったとは思いませんが、一定の評価は出来ます。

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