14日に「カイジ~人生逆転ゲーム~」を観てきました。
 ネタバレあり。注意。

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 その日暮らしで毎日を無為に過ごし、周囲から負け組み視されながらも自分は負け組であることを認めようとしないカイジは、ヤミ金業者に連帯保証人となっていた債務を請求されてしまう。
 当然返済できないカイジはヤミ金の返済をチャラに出来る方法があると提案され、「人生を変えることが出来る」という言葉に刺激を受け、乗ってしまう。
 それは客船でゲームをすると言うもの。勝てばチャラ。その代わり、負けたときには自分の身がどうなるかわからないというものだった。
 カイジは自分の人生を賭けて、ゲームを戦っていく……。

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 まず結論から。率直に言って、面白かったです。
 色恋沙汰など全くない。あるのは勝負と、それに付随する人生の格差。その中を生き抜く人の生き様だけ。
 恋愛映画でときめきたい人とか、コメディで心底笑いたい、ノーテンキになりたいと言う気分の人には、向かないと思います。思いますが、面白いですよ。

 副題に「人生逆転ゲーム」とあるように、負け組みであるカイジが勝ち上がっていく様を描いている。この映画は基本的に勝ち組と負け組、搾取する側とされる側、立場の上下など、2極構造で描かれている。
 搾取する側は巧妙に、知恵を巡らせ、相手に気付かれないように自分達に有利な仕組みを構築していく。この映画で言えば、ゲームにおける駆け引きによって相手を出し抜いたり、優位に立ったりすることであり、あるいは地下世界の搾取の仕組みやブレイブ・メン・ロードにおける観客と挑戦者の立場の格差であったりする。
 負け組みに属す人間はその仕組みや思惑に気付かなかったり、その世界に適応して現状に満足してしまったりする。つまり、問題意識がない。自分を変えようという、積極的な行動に出ない。
 負け組みが負け組みたる所以はそこである。勝ち組でさえも、無為な日常に埋没しかねない。
 何をもって本当の勝ち組とするかを問えば、この映画は目的意識を持って自分を向上させていく人間こそ本当の勝ち組だと答えるのだろう。
 すなわち、生きているという強い実感をもって、輝いている人間こそ、勝ち組なのだ。

 資本主義や競争原理主義による格差社会の醜さをこの映画は描いている。しかし劇中、その象徴である帝愛や地下世界は滅びていない。カイジは勝ち上がっていくが、それはカイジが勝ったというだけで、仕組みその物を壊したわけではない。
 競争や格差という物は厳然としてそこにある。それをこの映画は認めている。人が生きていく上で、それは仕方がないことなのだ。問題は、その中で人としてどう生きていくのか、と言うことなのだろう。
 カイジ自身、自分を変えるために立ち上がるのは、そうした仕組みの中で目覚めたからに他ならないのだ。

 さて、実際問題として、帝愛が滅びなかったのは、原作がそうだったからなのかもしれないし、続編を意識していたということもあるのかもしれない。
 最後まで観てみて、続編が作れそうな終わり方をしている。それは今後この映画の反響を窺ってからと言うことなのかもしれない。
 自分は原作を読んでいないので、どの程度原作に忠実なのかはわからない。原作と比較して論じることも、面白さを比べることも出来ないが、この映画単体で観たときに、自分は充分素晴らしい出来だと思えた。

 まず主演の藤原竜也を始め、香川照之さん、天海祐希さんを始め、脇の山本太郎、光石研など、出演するメンバーが皆素晴らしい演技をしていた。特に、脇では松尾スズキさん、主演では香川さんの演技は見応え充分。
 香川さんというと度を超えた、誇張した演技が好きなのだけど、この映画では存分に発揮されている。喋り方から表情まで、良かったー。
 俳優達の演技(怪演)がこの映画の魅力の大きな一つになっていることは間違いないと思います。

 またスタッフも良い仕事をしていたと思います。
 観ていてこの映画、演出が上手いなーと思っていたら、監督の佐藤東弥さんはテレビドラマで多く演出を手がけていた模様。
 カット割りも細かく、しかも効果的に使われていた。ということは、事前に想定していたのか、思い付きでとりあえずということなのか、いずれにしてもパーツとしてのカットを撮り溜めていたということだ。撮影が大変だったんじゃないかと、素人の自分としては思ってしまう。
 北野武監督は編集作業をプラモデルに例えている。組み立てるパーツ(カット)を用意して、それを色々いじってくっつけたり離したりする作業。
 編集はきっと監督さんがやっているのだと思うが、構成能力があると思うし、ちょっと注目しなければいけない監督さんだ。

 脚本にしても美術にしてもとにかくスタッフ全員の力が結集されてとても良い仕上がりになっていると思います。
 もちろん疑問に思える部分もあるわけです。カイジは利根川が自分の行動を見ていたと確信を持って最後の大博打に出るわけだけど、見ていたとなぜ確信できたのか。自分が見落としていただけだろうか?
「さすがここまで勝ち残ってきただけはある」と言うが、橋を渡っただけで駆け引きの問題じゃないだろとか、上映時間にしてももう少し短くできたように思ったりだとか。
 ただ、見終わったときに面白かったと思える作品はそう言った細かいところも許せてしまったりします。
 
 果たして続編は作られるのだろうか?
 今作が様々な相互作用によって面白くなっただけに、次回があるとしたら少々不安だが。

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