ネタバレがありますので注意。
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強固なセキュリティを背景に世界中の人々や行政機関、地方自治体が参加するインターネット上の仮想世界OZが成立している世界。
夏休み。
物理部に所属する小磯健二は友人とOZのメンテナンス作業をするアルバイトを行うことになっていた。そこへ学校の先輩でありアイドル的存在の篠原夏希がやってきて、アルバイトを提案される。それは、夏希の田舎の本家へと一緒に来て欲しいという物だった。
引き受けたものの、実はそれは夏希のフィアンセのふりをするという内容で健二は動揺する。名家である陣内一族の面々が続々と集まる中、押し切られる形で承諾したが、そんな折に世界を巻き込む大事件が進行していた。
田舎に集まった一家と健二は、いつの間にかその事件の中心へと関係していくことになる。
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作品は喜怒哀楽を刺激される極上のエンターテインメントに仕上がっている。
上映時間は2時間弱と程良い長さ。脚本が良いのか監督の手腕なのか、物語はテンポよく進み、しかもその中で動静にメリハリがある。しっとりと見せるところは見せ、畳み掛けるところは畳み掛ける。
作品の主題は間違いなく家族で、もっと言えば人と人の絆、繋がりを描いている。
日本の各地に散らばる陣内家の面々が一所に集まり、賑やかに楽しげに旧交を交わす姿が描かれ、その中心として陣内家の当主、陣内栄が置かれている。
彼女は人望という言葉を絵に描いたように慕われ、また実際にそれを体現してみせる。
人を愛し、人を信頼し、そしてその繋がりを大切にするというところを見せる。それは人としての当然の在り方として実行されている。
そんな彼女の元に一族は結束して大事件に挑む。それどころか、日本中の、あるいは世界中の人間達が絆で結ばれていくのだ。
人というのはやはり、完璧ではない。どこかに欠点を持っている。だからこそ、人との繋がりの中でそれは補強され、自身を強化することが出来る。
この作品の中で基本的な視点は小磯健二なのだが、実際は彼は大勢の中の一人であり、狂言回しのような存在でもある。
皆がそれぞれに生き、主人公が次々入れ替わっているのだ。
小磯健二は数学に関する能力には秀でた物があったが、数学オリンピックの代表になり損ねてしまう。劇中でも性格的な弱さや、計算ミスをする場面が描かれている。
つまり、彼は瀬戸際の強さが足りなかった。それは自分に対する自信の無さの表れなのかもしれない。彼は自分の家族との交流が乏しかった。
しかし事件の最中、陣内一族との触れ合いを経て、彼らから強さを貰う。信頼と絆という強さだ。
13歳の池沢佳主馬はいじめられっ子だった過去に陣内万助に少林寺拳法を倣って自分を強化した。そしてそれはOZの格闘ゲームに活かされている。
劇中での敵との戦いにおいて、彼は何度も挫折を味わう。しかしその度に、家族達の支えで復活を見せる。
劇中の重要人物、陣内侘助も、篠原夏希も、みなそうして関わりの中で強くなっていくのだ。
物語は全編を通して退屈さを感じる暇もないほど濃密に描かれている。
設定の面白さや構成のうまさなど色々あるのだが、その中でもやはり一番観客を引きつけるのはヴィジュアルイメージの秀逸さではないだろうか。
現実世界の風景、名家の佇まいなどもそうだが、仮想空間であるOZの表現が非常にユニークであり、壮麗である。色遣いが多様で楽しげである。
この作品を成立させるための土台となるOZでは、個人のアバターを持つことが出来、OZの中では買い物からゲーム、各種手続きなど様々なことが出来るし、また実世界での職業的権限を、そのアバターが持つことが出来るなど、とにかく至れり尽くせりの機能が備わっている。
そう言った機能のひとつひとつが好奇心を刺激されるような作りになっている。
各個人のアバターはそれぞれの性格を反映された作りになっていて、それを見ているだけでも楽しい。
敵がシステムを混乱させる表現も面白く、敵との戦いも迫力があり、壮大なイメージを駆使して描かれている。OZの世界が緻密に描かれ、そこでは現実世界を超越した表現で見せられるから、圧倒される。
話が小難しくてわからなくても、絵を見ていればなんとなくわかるし、別に細かなことは気にならなくなる。
脚本は誰かと思って調べたら、奥寺佐渡子さん。
「学校の怪談」の脚本を書いた人だった。なるほど、通りでキャラクター同士の距離感が心地良く描かれているわけだと思った。
甘酸っぱいというか、仄かな恋愛模様も上手い。
また、登場人物の量が半端ではないのにもかかわらず、それぞれの個性がきちんと描かれ、且つ過剰でも過少でもないのは、この脚本を始めとした、スタッフ全員の力の賜物だろう。
ただし、そうした作品の設定の情報量が多すぎる結果、2時間でまとめるとなるとどうしても総花的にならざるを得ない。
そこで少し説明が足りないのではないかと思われる部分もないとは言わない。
例えば主人公の家庭環境もそうだ。陣内一族に感化されるならば、そうなるそもそもの理由があるとわかりやすい。
個人的に特に気になったのは、なぜ主人公がアルバイトとして夏希に選ばれたのか。それまでの健二と夏希の関係だ。
フィアンセという設定なのだから、決して嫌っているような人間ではないはず。ボディタッチなども多く(彼女が天然の小悪魔でないならば)、好感自体は抱いていたのかもしれない。
最終的に関わりの中で強くなっていった健二に惹かれることは別にいいとして、そもそもこの物語が始まる導入部分の二人の関係が曖昧だったことが、自分には最後まで引っかかった。
いずれにしろ、良作。
いつか彼のためにスタジオが作られたりして……なんてね。
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強固なセキュリティを背景に世界中の人々や行政機関、地方自治体が参加するインターネット上の仮想世界OZが成立している世界。
夏休み。
物理部に所属する小磯健二は友人とOZのメンテナンス作業をするアルバイトを行うことになっていた。そこへ学校の先輩でありアイドル的存在の篠原夏希がやってきて、アルバイトを提案される。それは、夏希の田舎の本家へと一緒に来て欲しいという物だった。
引き受けたものの、実はそれは夏希のフィアンセのふりをするという内容で健二は動揺する。名家である陣内一族の面々が続々と集まる中、押し切られる形で承諾したが、そんな折に世界を巻き込む大事件が進行していた。
田舎に集まった一家と健二は、いつの間にかその事件の中心へと関係していくことになる。
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作品は喜怒哀楽を刺激される極上のエンターテインメントに仕上がっている。
上映時間は2時間弱と程良い長さ。脚本が良いのか監督の手腕なのか、物語はテンポよく進み、しかもその中で動静にメリハリがある。しっとりと見せるところは見せ、畳み掛けるところは畳み掛ける。
作品の主題は間違いなく家族で、もっと言えば人と人の絆、繋がりを描いている。
日本の各地に散らばる陣内家の面々が一所に集まり、賑やかに楽しげに旧交を交わす姿が描かれ、その中心として陣内家の当主、陣内栄が置かれている。
彼女は人望という言葉を絵に描いたように慕われ、また実際にそれを体現してみせる。
人を愛し、人を信頼し、そしてその繋がりを大切にするというところを見せる。それは人としての当然の在り方として実行されている。
そんな彼女の元に一族は結束して大事件に挑む。それどころか、日本中の、あるいは世界中の人間達が絆で結ばれていくのだ。
人というのはやはり、完璧ではない。どこかに欠点を持っている。だからこそ、人との繋がりの中でそれは補強され、自身を強化することが出来る。
この作品の中で基本的な視点は小磯健二なのだが、実際は彼は大勢の中の一人であり、狂言回しのような存在でもある。
皆がそれぞれに生き、主人公が次々入れ替わっているのだ。
小磯健二は数学に関する能力には秀でた物があったが、数学オリンピックの代表になり損ねてしまう。劇中でも性格的な弱さや、計算ミスをする場面が描かれている。
つまり、彼は瀬戸際の強さが足りなかった。それは自分に対する自信の無さの表れなのかもしれない。彼は自分の家族との交流が乏しかった。
しかし事件の最中、陣内一族との触れ合いを経て、彼らから強さを貰う。信頼と絆という強さだ。
13歳の池沢佳主馬はいじめられっ子だった過去に陣内万助に少林寺拳法を倣って自分を強化した。そしてそれはOZの格闘ゲームに活かされている。
劇中での敵との戦いにおいて、彼は何度も挫折を味わう。しかしその度に、家族達の支えで復活を見せる。
劇中の重要人物、陣内侘助も、篠原夏希も、みなそうして関わりの中で強くなっていくのだ。
物語は全編を通して退屈さを感じる暇もないほど濃密に描かれている。
設定の面白さや構成のうまさなど色々あるのだが、その中でもやはり一番観客を引きつけるのはヴィジュアルイメージの秀逸さではないだろうか。
現実世界の風景、名家の佇まいなどもそうだが、仮想空間であるOZの表現が非常にユニークであり、壮麗である。色遣いが多様で楽しげである。
この作品を成立させるための土台となるOZでは、個人のアバターを持つことが出来、OZの中では買い物からゲーム、各種手続きなど様々なことが出来るし、また実世界での職業的権限を、そのアバターが持つことが出来るなど、とにかく至れり尽くせりの機能が備わっている。
そう言った機能のひとつひとつが好奇心を刺激されるような作りになっている。
各個人のアバターはそれぞれの性格を反映された作りになっていて、それを見ているだけでも楽しい。
敵がシステムを混乱させる表現も面白く、敵との戦いも迫力があり、壮大なイメージを駆使して描かれている。OZの世界が緻密に描かれ、そこでは現実世界を超越した表現で見せられるから、圧倒される。
話が小難しくてわからなくても、絵を見ていればなんとなくわかるし、別に細かなことは気にならなくなる。
脚本は誰かと思って調べたら、奥寺佐渡子さん。
「学校の怪談」の脚本を書いた人だった。なるほど、通りでキャラクター同士の距離感が心地良く描かれているわけだと思った。
甘酸っぱいというか、仄かな恋愛模様も上手い。
また、登場人物の量が半端ではないのにもかかわらず、それぞれの個性がきちんと描かれ、且つ過剰でも過少でもないのは、この脚本を始めとした、スタッフ全員の力の賜物だろう。
ただし、そうした作品の設定の情報量が多すぎる結果、2時間でまとめるとなるとどうしても総花的にならざるを得ない。
そこで少し説明が足りないのではないかと思われる部分もないとは言わない。
例えば主人公の家庭環境もそうだ。陣内一族に感化されるならば、そうなるそもそもの理由があるとわかりやすい。
個人的に特に気になったのは、なぜ主人公がアルバイトとして夏希に選ばれたのか。それまでの健二と夏希の関係だ。
フィアンセという設定なのだから、決して嫌っているような人間ではないはず。ボディタッチなども多く(彼女が天然の小悪魔でないならば)、好感自体は抱いていたのかもしれない。
最終的に関わりの中で強くなっていった健二に惹かれることは別にいいとして、そもそもこの物語が始まる導入部分の二人の関係が曖昧だったことが、自分には最後まで引っかかった。
いずれにしろ、良作。
いつか彼のためにスタジオが作られたりして……なんてね。
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