テロの情報を得て、邦人を守るためにイタリアへと派遣された外交官の黒田。イタリアの日本大使館ではG8に備えて着々と準備が進められていた。
 そんな折、日本人少女の失踪事件が発生。関わることになった黒田だが、それが誘拐事件へと発展。少女の母親、警察と共に犯人の要求に振り回され、イタリア各地の観光名所をたらい回しにされる。
 犯人の思惑が掴めない中、次第に解決の糸口となるような手掛かりを見つけていく黒田だったが、独断の行動は捜査権限がないために警察からのクレームを受け、上司からも体裁上の問題を指摘される。
 犯人からの要求が続き、障害の中一歩ずつ核心に近づいていく黒田。そして――。
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 結論から言うと、結構面白かった。

 この映画はたぶん面白いんじゃないか、と言うことは色々な情報から推測できていて、見たい見たいと思っていた。で、毎月1日、鑑賞料が安くなるので見に行ってきた。

 金のかかった大がかりな日本映画というとどうも空回りしがちで(特にアクション映画とか)、果たしてこの映画はどうなのかと思いながら観ていたのだけど、いや、久々に上映時間をほとんど全くと言っていいほど気にせずに見終わることが出来た。

 まず、テンポが非常に良い。導入から短時間で登場人物の人となりや状況などを把握させ、事件へと進んでいく。カットも展開もスピーディで中弛みをさせることがほとんど無い。編集が良かったのだろうか?
 人間関係においても、信頼関係の変化などは描かれるが、基本的に深入りはしない。つまり、そちらに時間を取られない分、事件絡みの事柄に集中することが出来、サスペンスとしてのボリュームや緊張感を持続させることが出来ている。
 ここの割り切りは結構重要で、観客受けを狙って両方入れようとすると返ってどっちつかずになり、失敗したりする。
 決して人間関係が描かれていないというわけではないのだけど、適当な間合いで終わらせていることによって、映画の核であるサスペンス部分が活き、後味も悪くなく、含みを持たせることが出来ていた。
 最後の最後に関しては、エンターテインメントとしてみると減速してしまった感は否めない。ここはさじ加減が難しいところだろう。娯楽映画としてのカタルシスを重視するならば軽薄になりかねないし、今回のように重みを出そうとすると興奮が薄れていく。
 ただ、じゃあ今回の最後が全くつまらなかったかというと、必ずしもそうではない。撮り方や見せ方の配慮もあったと思う。お涙頂戴でダラダラし過ぎなかったことも、功を奏したのではないだろうか。
 個人的には、犯人側の動機に感情移入できる本格的な強化シーンが欲しかったが、予算や撮影の手間、上映時間などもあるし、実際やろうと思ってもなかなか難しいのかもしれない。

 登場人物で言うと、皆良かったように思う。
 織田裕二と言う役者は、個人的な意見だけど、役を細かく演じ分けるのが凄く上手いという訳ではないような気がする。基本的に似たような演技になる。そういう点では大根なのだけど、絵になる容姿と雰囲気を出していているし、魅力的なのだ。また、(演じ分け以外の)演技力は確かな物があると思う。
 彼の場合、大雑把に2通りのキャラクターに強みがある。
 踊る大捜査線の青島に代表されるような、人間臭いキャラクター。
 もう一つは、(見たこと無いけど)「振り返れば奴がいる」とか、「県庁の星」に代表される、感情を殺したようなキャラクター。
 今回のアマルフィは後者。非常に雰囲気があって良かったし、「陽」の当たり役が青島ならば、「陰」の当たり役はこの黒田なのかもしれない。
 企画の規模からしてそう簡単にシリーズ化はされるとは思わないが、されたら面白そうだ。

 監督は「県庁の星」の西谷弘。
 県庁の星は地味だし最後が蛇足気味かなとも思ったけど、基本的にテンポも良く、秀作だと思えた作品だった。
 ちょっと、この監督は注目しなければならないような気がする。

 サラ・ブライトマンの歌も非常に聴き応えがあり、美食を口に含み舌で楽しんでいるときのような恍惚感があった。映画に非常に寄与していると思う。
 観客がスタッフロール中もほとんど席を立たなかった事が印象に残っている。

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