「齋藤孝の速読塾」を買いました。

 速読の本は以前一冊別のものを買ったことがありました。それはページを映像として捉え、聴覚ではなく視覚で理解するというもので、その仕組みを体(脳)で作ることで飛躍的に読書量が増える、と言うものでした。

 何というか、例えが適切かはわかりませんが、今までが自転車や車を使っていたならば、それをヘリや飛行機に乗り換えようという類のモノでした。ただし、運転技術が当然違いますから、それをマスターするために色々と訓練して思考回路を変えていくという作業が必要になります。

 対して、今回の速読塾は、訓練はもちろん必要ですが、飛行機だとかスペースシャトルだとか、乗り物自体を高度な物に乗り換えるような、そういった特別難しい技術を要する方法は提示していません。
 今まで車に乗っていた人が、より効率よく目的地まで運転していける方法や、物の考え方、物の見極め方と言った、技術を提示しています。

 特殊能力を獲得すると言うよりは、読み方や読む意識を工夫するようなことを指南しています。ニュータイプになるんじゃなくて、オールドタイプのまま技術を上げるというか。

 個人的には「ヘリコプターの感覚で島を作っていく方法」は良いかもなあと思っています。
 なるべくページに早く目を通していって、キーワードとなる部分、あるいは理解出来る部分をチェックする。前後の文章も目に入りますから、そこを島とする。そういうことを繰り返していくうちに、本全体の流れや繋がりがわかってくる。
 部分部分に注目して本全体に一回目を通してみる。そうすることによって理解しやすくなるし、本の中でどのあたりに重要なことが書かれてあるのかと言うことが判断しやすくなる、と言うことです。
 本には重要なところとそうでないところがあるから、それを見極めて、重要な部分にエネルギーを注ぐ。重要な2割だけを読んで、内容の8割を理解すると言う主張です。そうすることによって、余力を別の本に回せます。そこから新たな見識を得られるというわけです。

 この本では「本を最初から最後まで全てを確実に読む必要はない」と提言されています。ポイントを見極めて重要な筋を把握すればいい。そのために例えばタイトルや目録、帯、目次などからテーマを予想したり、著者と感覚を近づけてみたり、3色ボールペンを活用して視覚的にわかりやすくしたり、といった、具体的な方法が紹介されます。
 雑誌は読みやすいのに本は読みにくいというのなら、雑誌感覚で本を読むように工夫をしてみてはどうだろうか? とか、テレビを見ていてもトイレに行っていても、活用できる時間があれば本を読むとか、とにかく日常にすり寄り、絡め、個人の工夫で「速読」「多読」を可能にするための「アナログ的手法」が次々と記されています。

 全てが自分に合うとは思いませんがこれだけ訴えかけられると「なるほど、こういう手もあったか」と思いますし、「じゃあ自分も、これを取っかかりに何か一工夫してみるか」という気にさせられます。
 何より勇気づけられます。著者の前向きなスタンス、本を数多く読むこと、そこから得られる物の素晴らしさ、多読をこなす手段の雨あられ。
 飛ばし読みすることに対する恐怖や、本を汚しながら読むことに対する抵抗など、従来本を読むことにブレーキをかけていた諸要素をぶち壊してくれます。
 それらをした方が、むしろ良いんだ、と。
 10冊を同時並行で読めとか、毎月最低1万円を本に投資するのはどうかなど、実践するか否かは別として具体的な数字を、しかも自分にはやや大きめの単位で見せられると、そこまでは無理としてもその何分の一ならば可能かもしれないと思えます。

 本をたくさん読むことで得られることを嬉々として書かれているので、それが出来るようになったときの自分を想像すると、ワクワクしてきます。成長した自分の可能性を感じさせてくれるのです。
 もしかするとこの本において、「速読」「多読」を可能にさせる一番の要素は、そういった著者の本に対する愛、本を書き記した人達への尊敬の念かもしれません。 

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