・東京読売ジャイアンツについて

 原監督(を始めとしたコーチ陣)が再び就任して以来、ジャイアンツは上位で安定した戦いを繰り広げている。コーチ陣の采配、教育、起用という現場の変化もあっただろうし、相変わらず巨大な資金を投下した補強も奏効しているのだろう。
 補強について言えばかなり質が変わっている。スワローズにいたフロントの人間がジャイアンツに入ったというのは聞いていたが、その前後あたりからかなり補強が的確になってきたと、個人的には思っている。もちろん、現場から声をくみ上げている部分もあるのだろうが。
 いずれにしろ、近年の巨人は他球団から見たときに、かなり手強い相手と言える。昨年を振り返り、今年どうなるかを予想してみたい。

・投手について

 かつてジャイアンツと言えば投手が致命的に脆かった。そこさえ補強すればもっと優勝できていたはずで、その点では他球団は助けられていた部分はあった。が、近年はかなり投手力が向上してきている。
 昨年の巨人のチーム防御率は6球団中2位だった。セーブは44で充分、ホールド、ホールドポイント共に2位でリリーフ陣の充実を物語っている。完投が6で4位タイと、あまり先発がパッとしなかったが、被本塁打は下から2番目、四球も同2番目、奪三振はダントツで1位だった。
 唯一悪かった点として暴投の数が図抜けて多かったが、それは若手が多いと言うこともあるだろうし、クルーンなど威力のある球や縦の変化で勝負する投手が多かったと言うことかもしれない。
 数字で見る限り、やはり阪神と同様かなり質が高い。

・先発投手について。

 昨年のジャイアンツの場合先発事情が一番問題として大きかった箇所かもしれない。

(軸)
→グライシンガー(17勝9敗、206回、3.06)
→内海(12勝8敗、184.1回、2.73)、
→高橋尚成(8勝5敗、122回、4.13)

 主にこの三人が軸となっていた。残りの2~3枠を、

(脇)
→上原(6勝5敗、89.2回、3.81)、
→木佐貫(6勝5敗、74回、4.14)、
→野間口(2勝3敗、52.2回、4.96)、
→バーンサイド(5勝3敗、75回、3.48)

 もちろんその他若手やベテランも入っただろうが、主に上記の四人が投球回で見てみると多かった。

 見て貰えればわかるとおり、先発として抜群の成績を残しているのは内海とグライシンガーだけ。タラレバになるが、もしグライシンガーを獲得できていなかったら、逆転優勝は出来ていなかった可能性が高い。
 このチームは昨年、リリーフと打力で勝ち上がったチームだと言える。
 また今年からは上原が抜けることになる。今までは精神的にも実績的にもエースという役割を担ってきた彼がいなくなることはチームに影響を与えるだろうし、現実的な意味で言えば計算できる先発投手が一人抜けると言うことである。
 そういう意味で、今年の最重要課題はこの先発投手の編成にあると言える。

先発(確定)
→内海、グライシンガー、高橋尚

先発(不確定)
→バーンサイド、ゴンザレス、木佐貫、久保

先発(未知数)
→福田、野間口、金刃、西村健、栂野、東野

先発(穴)
→古川、深田

 数字で見るとおよそこんな感じになるのではないか。
 上原が抜けたと言うことと、近年の数字からして、内海は今年がエースの後継者としてその地位を確固たる物に出来るかが問われる年となるだろう。グライシンガーは今年もまずまずの働きをしてくれるのではないか。高橋尚は抜群の成績を期待するわけではないが、毎年コンスタントに登板しているので、先発要員としてはある程度計算できるだろう。
 残りは2~3枠となる。
 バーンサイドとゴンザレスは外国人枠の問題がある。外国人枠は一軍登録が最大4人、野手投手共にそれぞれ3人までと決まっている。投手で言えばクルーンとグライシンガーは当確だと思われるので、基本的にはどちらか一方しか一軍にはいられないと思われる。ただどちらだったとしても実績も挙げているし、実力的にもまずまずの成果を残せるだろうとは思う。ただし、更に野手のイ・スンヨプとアルフォンゾが外国人枠の競争相手になるので、二名とも常時一軍というのは厳しそうだ。
 木佐貫は巨人の中堅どころでは実績を残している部類に入ると思うが、一皮剥けきれずに成績が安定しない。久保も同様で、一軍であと一つ伸びきれない。

 福田、野間口、金刃は社会人や大学から上位指名で入団した投手で、未だ実績的には不十分な未完の大器と言える。特に野間口なんかはその投球を見ていて、全身バネかと突っ込みたくなるくらいに素晴らしい素材じゃないかと個人的には思っている。皆まだ若いし、十分飛躍の可能性はある。
 ただし現実的にローテに割り込めるとすれば、西村健、栂野、東野の三人ではないかと思う。誰を先発で試すのかチーム事情はわからないが、一軍での実績は彼らの方が上回っているように思う。
 特に西村健に関して言えば毎年怪我もなく投球回も多く投げているし、防御率もまずまず良い。かなり現実的と言える。

 穴として記した二人はファームで良い成績を収めている投手で、一軍ではまだほとんど投げていない投手なので、よく分からない。調子にもよるが、今年は一軍で飛躍するための土台を作る年になるのではないか。チャレンジの年だろう。

 こうしてみてみると、先発投手に関して言えば、ある程度計算できるベテランが少ない。これは言ってみれば成績の不安定さに繋がるのだけど、逆に言えばそれだけ伸び白がある、今後のチームを担っていく若手が多い、と言うことだ。そして実際、ファームでも一軍でも、期待を抱かせるような成績を残している選手が多い。これは現在ジャイアンツにとって唯一の弱点とも言える先発投手不足が、近い将来解消されるかもしれないという明るい材料になっている。
 ただし、あくまでも期待であって、現実にどうなるかはわからない。若手が伸び悩めば先発事情は苦しくなる。いくらリリーフが優れているからと言って、負担ばかりかけていればそちらも巻き添えを食いかねない。
 そういう点でリスクではあるのだが、昨年同様、やり繰り起用で何とか凌げるのではないかと言うほどの人材はいるし、また、何より強力な打線のバックアップが投手をサポートしてくれるのではないかと思う。

・中継ぎ投手について。

 昨年、先発がピリッとしなかった代わりに、中継ぎが頑張った。特に、若手の中継ぎが台頭したことは大きい。そこに満足することなく、今年はさらなる補強をしてきたのだから、いよいよ補強箇所を見誤らない眼力を、巨人のフロントも養ってきたかと思う次第だ(そして俺は偉そうに何様だろうか)。

・抑え
→クルーン、マイケル中村

・セットアッパー
→山口、豊田、越智

・勝ちリリーフ
→藤田、西村健

・繋ぎリリーフ
→久保、栂野、東野

 さて、打ち込んでいて羨ましくなってくるほどの、質と量を兼ね備えたリリーフ陣。
 上原は昨年もリリーフとして登板する機会があったようだが、今年は抜ける。しかしそれを補ってあまりある補強がマイケル中村だ。代償として林や二岡は放出したが、昨年は二人ともあまり戦力になっていなかった。その点で昨年も活躍したマイケル中村が加入したと言うことは、戦力的に大きく上がったと言える。

 抑えとセットアッパーが、合わせて5人いるというのは驚異的だ。抑えとセットアッパーというのは、僅差の勝ち試合を確実に物にするための戦力であり、そう言った面子がここに入ってくる。そのような選手は一球団にそう何人もいないが、巨人の場合は5人だ。これは試合の中盤辺りから彼らを投入できると言うことであり、リードしていればその試合を物に出来る可能性がかなり高まる。
 もちろんクルーンは不安定だし、豊田は高齢だし、越智や山口は実質昨年からの活躍だったと言う点では、今年もまた同じような働きが出来るとは限らない。とは言え5人もいれば、誰かが不調でも誰かが何とか残るだろう。
 そして、そう言った不安要素がある中で、例年実績を残しているマイケル中村の加入というのは大きい。手を緩めずに補強した巨人を、ここは褒めるしかないと思う。

 また試合中盤で登板させる起用勝手の言い投手もいる。ここは先発投手の枠に入りきれなかった選手や若手などが入ってくることになると思う。こういったところも馬鹿にならない。特に巨人の場合打力は相当に強力なので、多少負けていても中盤で粘っていればひっくり返ることもある。

 ここに新たに加われるとすれば、
→会田、上野、オビスポ、木村正、深田、古川、あるいは新人
 と言った面子が、昨年ファームでまずまずの結果を出しているだけに、期待される。

 大きな補強が出来なかったこともあって、相変わらず先発では多少心許ない面子になっているが、一皮剥ければかなりの戦力になるような選手が多いだけに怖い。
 リリーフに関して言えばかなり潤沢な戦力を備えていると言える。こちらはかなり安定して成果を出せるのではないかと思う。

 伸び盛りの若手主体で突き上げ、要所にベテランを配することで安定感を備えている。投手力の良いチームは安定した戦いが出来ることが多いため、この点だけ見れば少なくともAクラスは確保できるのではないかと思わせる。

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・09年3月20日(金)追記。

・野手について。
 ようやくやる気になったので(笑)更新します。

 好不調や故障など不確定要素はあるが、投手陣に関しては質が高く、層もまずまず厚いため、単純に戦力を見た場合、おそらくAクラス入りは確実ではないかと思える。投手の質が良さは安定した戦いに繋がるからだ。
 ただ、若い選手が多く、特に先発が多少苦しいという点は不安ではあるが。

 一方の野手はどうだろうか。
 まず単純に昨年のチーム打撃成績を見てみたい。

 チーム打率は2球団と並んで3位タイ。一方出塁率は1球団と並んで3位タイ。ここだけ見ると大したことはないのだが、打点は610(2位は550)で1位、得点も631(同583)で1位と、ダントツでトップ。二塁打が234(同215)で1位、本塁打は177(同145)で1位と、長打率1位のチームらしく、破壊力抜群の打線であることが窺える。それを裏付けるように、敬遠が33(同22)で1位だった。
 また、長打だけかというとそうでもない。盗塁に関しては78で2位、犠打も113で最下位ではある物の、他球団と比べて極端に少ないというわけでもない。これは、チームとしてのバランスの良さを窺わせる数字だ。

 開幕時、主力には補強したラミレスやゴンザレス(ドーピング検査の陽性反応により解雇)、高橋由、小笠原、イ・スンヨプ、阿部、谷などを中心とした、実績十分、百戦錬磨のメンバーを揃えていた。
 平均年齢の高さでは中日と同等かそれを凌ぐ程だが、華やかさでは明らかにこちらの方が上のように感じた。まさにスター軍団だろう。ただし、開幕してからは中日同様、あまり機能しない面があり、苦戦した。

1.中・鈴木
2.二・木村拓
3.三・小笠原
4.左・ラミレス
5.右・高橋由(谷)
6.一・イ・スンヨプ
7.捕・阿部
8.遊・坂本
9.投手

 昨年のこのチームの場合、好不調や故障、年齢など含めて事情が様々なために、打線があまり固定できていなかったような気がする。その中で、とりあえず打線を上記しておく。
 昨年序盤は下位に沈んでいた。理由は色々あるだろうが、まず打線が思ったように機能していなかった面がある。なぜ機能しなかったのか、と言う点についても色々だろうが、一つには、実績のあるベテランは序盤、エンジンがかかりにくい傾向がある、と言うことだ。打線の平均年齢は、明らかに高い。
 また、高橋由や二岡など、故障などで出遅れた選手もいる。また、全体的に年齢が高いため、体力や故障にも気を配らなければいけなくなる。実績のあるベテランが多いと言うことは安定した戦いを期待できるのだが、逆に体力的に下降しているため、怪我というリスクが常につきまとう。
 他にもイ・スンヨプや阿部など、不振に陥った選手もいた。

 こういった理由によって昨年前半は不本意な順位に甘んじていたが、中盤から徐々に追い上げ、後半ではついに1位となっていた。その時点では中堅や若手が入り交じった打線へと変貌していた。
 元々原監督は積極的に若手を起用するタイプであり、割とやり繰りのうまい監督なのかなという印象を持っていた。ベテランは先に記したようにチームの芯となって選手をまとめ、実績に基づいた勝負感や技術などで安定した戦いを可能にする。
 一方で、体力の翳りがプレーの熱量を落とす。また、怪我のリスクを生じさせる。それに、豊富な経験値がマイナスに作用することもある。
 若手は不安定で、様々な部分で未熟だが、一方でプレーの熱量が高く、一旦波に乗れば勢いを生み出す傾向がある。優勝するチームというのはベテランと若手の融合がうまくいったときに生まれたりするものだ。
 そう言う点で、歳を取りすぎたチームに坂本という若いレギュラーが生まれたのは重要なことであり、また鈴木や亀井、寺内、岩館、隠善、加治前など、有望な若手の積極的な登用は必要なことなのだ。
 実際はどうだったかは別として、個人的な印象では、昨年前半にベテランが故障や不振でいない間に、こういった若手が出ていた方が、巨人の勢いが良かったような気がした。
 また、ベテランの中にも花形プレーヤーと言うよりは燻し銀の、大道、木村拓、古城などを重用していたりするあたり、試合を形作る上でどういったメンバーが必要かということをしっかりと認識しているように思う。
 若手の起用に関しては怪我の功名と言うこともあるだろうが、全体として原監督(を含めた首脳陣)のバランス感覚の良さと人格、方針、起用などが、明らかにプラスに作用していると思う。
 今まではただ金を持っているだけのチームだったわけだが、フロントがしっかりと補強をし、現場に優秀なコーチが存在することによって、とても手がつけられないようなチームへと導くことは十分に出来るわけだ。もちろん、様々なプレッシャーや困難があり、難しいことではあるが。

1.中・鈴木
2.遊・坂本
3.三・小笠原
4.左・ラミレス
5.右・高橋由(谷、亀井)
6.二・アルフォンゾ(木村拓)
7.一・イ・スンヨプ
8.捕・阿部
9.投手

 今年もおそらく昨年のメンバーを中心に、柔軟に入れ替えて試合に臨んでくるのだろう。打線の核に、小笠原、ラミレスという、老け込まない、超一流の打者がいるのも心強い。
 ただし、やはり年齢層が高いので、世代交代が課題に挙がってくるのだと思う。しかし原監督であればそこはうまくやり繰りするだろうし、またファームの成績を見てみても、良い数字を残している若手は多い。

 チーム全体としてみてみると、綻びがないわけではないのだが、若手、中堅、ベテラン、助っ人、指揮官、あらゆる点で充実した戦力を誇っていると言うほかない。
 やはり一番の心配は先発投手だが、そこさえ解決できればぶっちぎりで優勝しかねない戦力だ。もちろん、野球は大小様々な駆け引きがあるので、単純に戦力では計れない面もあるが、極めて高い確率でクライマックスシリーズに進める可能性はある。

 他球団にとって、恐ろしいチームであることに代わりはないようだ。

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