灰白色の雲がシャワーのような雨を降らせていた。

重たい雨粒が体のあちこちに突き刺さる。天気予報を意識して見る人間ではない自分は、この空模様にあいにく傘を持ち合わせていなかった。
見るからに分厚い天の壁はおそらく、一日中消え去ることは無いだろう。
でもまあ、だからといってそれほど困ることも無いのだけど。
足裏の水滴を散らしながら、小走りで駆けた。

湯気で潤んだ白米を口に頬張りながら考える。
世の中には溢れ返るほどの歌がある。そしてその中には、溢れ返るほど僕らの背中を押す歌がある。
溢れ返るほどの曲が日常に溢れているのだ。
僕らの耳には、そういった音楽が知らず知らずのうちに流れ込んでいるのだ。
リズムに乗った詩が無責任に言い放つ。

「勇気を持って歩き出せ」


喉に詰まった食べ物をお茶で飲み流した。
満員エレベーターのようにぎゅうぎゅう詰めになりながら、食道を押して胸に流れていく。滑っていった感覚を確認しながら一息ついた。
少し落ち着いたところで気を取り直し、箸を進める。

実際の世界はそれほど甘くは無い。
ほいほい飲み込んで行動に移してしまうと、とてもじゃないけど立ち回らなくなる。そんなことはまあ、目に見えていると言うか、ある程度は予想できることでして。
世の中で歌われているほど、成功者は多くないのだ。

テレビやオーディオを通して与えられる勇気や希望。
それは結局現実にそういったものがなかなか見当たらないから、一枚挟んだ向こうの世界から届けられるのだ。
家族や仲間は言うだろう。

「もう少し考えたら?」

どっちが正しいだろう。
いや、まあ、正しいなんていう事は無い。
正しいかどうか判断されるのは、結果が出てからだ。
存在するのは確率だけ。
つまりは、無責任と思えるその歌詞も、堅実と思えるその言葉も、最終的な判断にはならない。最後はやっぱり自分の意思が重要になってくる。

食べ終えて席を立つ。
また屋根を鳴らす冷たい景色へ足を踏み入れた。
水溜りが粟立つように細かい波紋を広げている。

結局、成功するにしてもしなくても、自分がある程度の決意を持った行動をすることが、重要なんだろう。
腹をくくった行動、というか。

なんだかんだ考えて、最後に一つ思うことがある。
なんか、浅はかだな。底が浅いな。俺の答えは。

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くるり、というか、岸田さんは凄い。
なんという詩を書くんだ。と、いつも思う。
自分はそんなに音楽は知らないけど、知ってる中では、この人の詩は五つの指に入る。
先日、ラジオから流れてきた「ハイウェイ」。歌詞をじっくり聴くのは初めてだ。

――僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって

ひとつめはここじゃどうも息も詰まりそうになった

ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること

みっつめは車の免許取ってもいいかなあなんて思っていること――

……ここだけでやられた。そして、この人は平気でこんなことを書く。

――何かでっかい事してやろう きっと

でっかい事してやろう――

……この後にもまあ、心動かされるようなことが書いてあって。
まあ結局、そういう音楽に背中押されて、俺も助けられてるんだけどね。
無責任だけど、とっても優しい。
オーディオから流れてくるとても素晴らしい音楽から、俺は離れられない。

結局「ハイウェイ」買っちゃった。安い。

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