卒業式、(笑)編。
2003年3月5日高校卒業当日。
鬱々としている自分の目の前を、
「やった!!やっと出所だ!!」
と言いながら全力で走り抜けていく生徒数名。
出所て。
式が始まる。
椅子に座る。
目の前の段には、校長を始めとする学校のお偉い方、それと対面するように、外来のお偉い方が座っていた。
PTA会長
町長
部活動後援会会長
同窓会会長
その中でもひときわ目を引くのは、同窓会会長。
放っておいたらそのまま死んでしまうのではないかというほどのよぼよぼおじいさんだったのだ。
それはさておき、式が始まる。
始まると同時に、
「ウエエエエエ!!!!!」
という壮絶な嘔吐音が響く。
どうやら、前日に飲みすぎた人らしい。
この人は、式中何度となく吐き気に襲われていた。
確かに、近くに寄ったら酒臭かった。
さて卒業式。
高校3年間を締めくくる、重大な式だ。
我々にしてみれば、人生の区切り。
ここから一歩を踏み出していく、とても大切な日なのだ。
ああなんと素晴らしい日なのだろう。
……しかし。
そういう日には、悪魔が潜んでいるものだ。
割と近くからこっちを見ているに違いない。
この風景を見て笑い転げているに違いないのだ。
だって、だってそうじゃなきゃ納得できないっすよ。
そうじゃなきゃ、なんでみんなあんなにセリフをかむんだよ?
そうです。
カミカミでした。
みんなカミカミでした。
喋るたびにかんでいました。
オンパレードです。叩き売りでした。
大安売りの大放出です。年中閉店セールです。
司会進行、卒業生代表、在校生代表、来賓の方々。
登場してはカミ、登場してはカミ。
切っては捨て、切っては捨てみたいな感じでした。
司会進行の先生がとにかくかんでいました。
というのも、たぶんあの先生は、こういう大舞台は初挑戦なんです。だって今まで放送で進行役なんかやってなかったし。
そういう意味で、とっても緊張していたと思います。
だからカミまくってたんだと思います。
そこはいい。それは良いんですよ、別に。
だけど、発音まで変にするのはどうだろうか、と。
発音が微妙に変なんですよ。
ここら辺は文字で伝えられないですが、
例えば、「起立」。
「規律」の発音で、「起立」と言うんです。
もう、起立するたびに笑いを噛み殺さなきゃいけないという地獄→それを見て笑い転げる悪魔。
という最悪の悪循環パターンにつかってしまって……。
そして極めつけなのが、先生が言葉をかまないように喋ると、逆に面白くなるという事実。むしろかんでくれた方がサラッと流せるんだけど、変にハッキリさそうとすることによって生まれる違和感に笑いをこらえる俺→それを見て腹を抱えて笑う悪魔。という最悪のパターンに。
もうまさに悪魔のいいようになってるんですね。
格好のカモです。
ちくしょう。
なので、そっちに気を取られないように、同窓会会長のおじいちゃんをずっと見ていることにしました。
微妙に切なくなれそうだから。
しかし、まさかそこにも悪魔の罠が仕掛けれらているなんて……!!
誰が想像できたでしょう?
それは校長先生が喋っているときのことでした。
会場に溢れている空気に勝てず、校長もあっけなく出始めでカミました。
あの校長ですら……。
校長……。
喋ってるところ初めて見たし。
いや、というか姿を初めて見た。
その校長の連続したカミ方に、会場ざわめく。
もちろん笑いである。
そして、こらえきれずに来賓も口元を緩めていた。
PTA会長、町長共に口を開けて笑う。
部活動後援会会長は空気に飲まれず笑わなかった。
同窓会会長……同窓会会長!?
おい、生きてるのか? 生きてるのか!?同窓会会長!!!
目を閉じたままひたすら瞑想する同窓会会長。
その会長の姿を発見した他の生徒の間で、会長死亡説が流れ出す。
「おじいちゃん起きて!! おじいちゃん!!」
不謹慎ながら、それを聞いて内心噴き出す俺→笑いすぎて息の出来ない悪魔という構図が生まれる。
野郎、あんないい人そうなおじいちゃんにまで魔の手を伸ばすとは!!
許すまじ!!
と言っても具体的な反抗手段がないために、とにかく笑わないように気を使う俺。
しかし、奴はいろんなところで巧みに手を打っているんです。
段に呼ばれた我が校の模範生徒が、礼をするたびにへっぴり腰になる罠。PTA会長の話が、終わりそうなところで終わらずにやたらと長い罠。
そんな逆境を潜り抜け、
場面はいよいよ、クライマックスへ。
卒業生代表が別れの挨拶を述べるため、校長の待つ壇上へと上がった。
うちの学校は代々、粛々淡々と式が進行するため、まず泣くような場面がない。他の学校だったら、仰げば尊しを歌ってわんわん泣いているところを、うちの学校は先生がかんだところで笑うのだ。
しかし、壇上に上がって文を読み上げる女生徒は、なんと、泣いた!! これには他の生徒も驚きを隠せない。
「マジかよ」
の声が飛び交った。
読み始めて数秒も経たない時点で泣き出したのだ。
その後は、すすり泣く声と共に文が読み上げられていくことになる。なんと感動的な場面だろう。さっきまでのカミカミオンパレードが嘘のような、会場の雰囲気。
かかっていた曲が、場を盛り上げた。
その光景に、悪魔、ちょっと退屈になる。
このまま行けば、悪魔は「ここは俺の場所じゃねーや畜生」とか言いつつ、どっかへと飛び去っていく。
親への感謝、先生への感謝を述べた生徒は、文書を包んでわたし、振り返った。
いいぞ、行け!!
涙を拭きながら、しっかりと階段を踏みしめて階段を下りた……のは良かったが、会談の3段目くらいで事件は起きた。
履いていたサンダルをスコーン!!
ってくらいおもいっきし前へ放り飛ばしてしまった。
約2メートル先に。
……。
台無し。
台無し。
悪魔、手を打って笑う。
「ウケケケケケ」
笑いすぎ。笑いすぎだろ。
耳に痛い。
逆転負けです。
結局彼女は若干恥ずかしそうに席に戻っていった。
さらし者だ……。
悪魔め……
なんてひでぇことしやがる……。
……こうして僕らの卒業式は終わりを告げた。
約2時間。
教室に戻って解散になると、
別れを惜しむように話したり、写真を取ったりする人達が多くいた。
もちろん早く帰る人もいたけど。
自分は、たぶん2時間くらい残っていた。
話したり、写真に撮ってもらったりお世話になった文系の先生に、自作小説を渡したりとかした。
そういえば、別のクラスは、先生が解散を宣言した途端、雪崩のように教室から生徒が出て行ったところもあったそうだ。
理由は、
「電車に間に合わなくなるから」
……さすが、男子のみのクラスは違うな。
あっさり度が違う。
おいおい、悪魔笑いすぎ。
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